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白坂 広子

部活指導に民間コーチの活用を、というニュースで思うこと


12月13日に「部活動指導 国家資格に」というニュースが流れました。

どういうことかと言うと、「教員負担の減少」と「少子化問題で悩まされる運動部活動の活性化」を図ることを目的に、学校の運動部活動の指導に外部の人材の活用を進めるということです。

少子化問題に関してはここでは触れませんが、教員の負担に関しては私も日々思うことがあります。教員は校務に加えて、ほとんどボランティアに近い環境で部活動指導をしています。部活動は運動部活動で平均週6日行われており(平成26年 日本体育協会調査より)、教員は放課後や休日を犠牲にして働いているのが現状です。教員は職員会議や急な生徒トラブルに対応することも多く、部活動に行けないこともあり、顧問不在時に発生する生徒の事故や傷害などの安全面も問題視されています。

ここで教員負担の減少という期待がかかる外部コーチ(民間コーチ)の活用について、アスレティックトレーナーの立場から触れたいと思います。

まずは高校の運動部活動指導者の実態をみていきます。

担当教科が保健体育ではなく現在担当している部活動の経験がないという教員:40.9%

担当教科が保健体育ではなく現在担当している部活動の経験があるという教員:34.1%

担当教科が保健体育で現在担当している部活動の経験があるという教員:21.0%

担当教科が保健体育で現在担当している部活動の経験がないという教員:4.0%

                          (平成26年 日本体育協会の調査による)

このデータを見ると、高校運動顧問の半数弱が「競技経験がないが指導をしている」という実態が見えてきます。そして競技経験がある顧問は55%にとどまっています。競技経験がない教員たちは専門的指導力の不足に悩む上に校務が忙しくて思うように技術指導の勉強さえできない、という課題を抱えています。教員に競技経験がないこと、校務が忙しくてなかなか指導ができないということは、教員が責められるべきではありません。校務を急いで終わらせて、自身の家族やプライベートを後回しにし生徒のために部活動をする、、、 この外部コーチの国家資格制度はそのような教員への救済策になるのではないでしょうか。外部コーチ(民間コーチ)制度が導入されれば、例えば現役引退をしたトップ選手が資格を取得して教員免許がなくても高校生(ジュニア世代)を指導できるようになり、顧問の専門指導力不足の解決、将来のトップアスリートの育成、そして教員の長時間労働の減少に繋がることになります。

しかし、この制度は一見多くのことを解決する策に思われますが、これが生徒の安全に繋がるわけではありません。先日、仙台大学が企画した学術講習会で名古屋大学の内田良先生をお招きしお話を聞く機会がありましたが、内田先生の見解は、外部コーチが介入することで技術力向上が主の目的となりやすく、スポーツ傷害などの安全面から見れば逆に怪我などが多くなるのではないか、ということでした。

私はアスレティックトレーナーとして「高校部活動の安全」を大きなテーマとし活動をしているわけですが、顧問に競技経験がある・ない、顧問が保健体育の先生である・ない、に関係なく、学校として安全管理体制を整えなければならない、と強く感じています。安全は生徒自身によって守らなければいけないのか、と思わざるを得ない事故の話を全国的によく耳にします。熱中症、脳震盪、突然死など死亡や重度障害に繋がるスポーツ事故は年々絶えません。当然避けることが難しい事故も発生しますが、事故前のリスク管理体制や事故後の適切な対応によって防げたはずに事故も多くあります。スポーツ事故は他校で発生した状況から学び、自分の学校で再発を防ぐことを学校として対策しなければなりません。

この外部コーチ制度をアスレティックトレーナーの立場から考えると、競技経験がある外部コーチの介入は、危機管理体制が整っていない学校に指導者が増えることになり、事故の管理責任がばらつくのではないかと懸念します。外部指導者は学校の管理体制に多くを言える立場ではないと考えられ、生徒の安全に対して責任がとれない・とらせられない人材が増えることで、学校の管理体制の整備がさらに求められるのではないでしょうか。体育や運動部活動指導者は生徒の命を守る行動が取れなくてはならないのですが、現状は訓練不足で多くの先生がそれができないと感じています。

私としてはアスレティックトレーナーが学校単位で雇用され学校安全を担うことを進めていきたいところではありますが、この外部コーチ制度が先に導入されるのであれば、その国家資格には『スポーツ安全面』をしっかりと盛り込んだ資格内容(熱中症講習会、頭部外傷・脳震盪講習会、突然死講習会、一次救命処置講習会など)となるべきです。そして学校はトップアスリート輩出や競技力向上、魅力的な部活動にすることで生徒を呼び寄せ少子化問題を打開したいのであれば、ともに安全面の配慮がされるべきであり、管理体制を見直す動きになることを願っています。

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