油断大敵!! ~ATの使命~

February 28, 2019

 

「〇〇さんが突然倒れました!」「○○さんがケガをして動けない状態です!」

 

学校現場にいると、体育授業中、運動部活動中、各種イベント行事中、登下校中など、あらゆる場面においてこんな事が起こりえます。

 

こんな時、アスレティックトレーナー(AT)は救助要請を受けて、直ちに駆けつけ、現場の状況把握、傷病者(生徒)の評価、応急処置を行います。場合によっては心臓マッサージや人工呼吸、そして自動体外式除細動器(AED)を使用することもあります。(これは何度経験しても慣れません・・・)

 

川平ATRで勤務してから約5年、これまでの緊急対応例は、骨折、脱臼、捻挫、肉離れだけでなく、出血、熱中症、低体温症、脳震盪、てんかん発作、意識消失などなど、多様な症例がありました。

 

そこで、ある一つの症例を紹介します。

 

部活動中ある生徒が突然フラフラし始めたので、周囲にいた生徒が異変を感じて近くに駆け寄り、名前を呼んでも反応があまりよくない状況。これは大変だと、指導者と我々ATRへ救助要請。

 

駆けつける途中、救助要請に来た生徒から状況を、ある程度情報収集し、私はあらゆる可能性を考慮しながら駆けつけます。現場に到着し、傷病者の生命兆候の確認をし、現場にいた周囲の生徒達からの情報を詳しく聞いてから現場の判断に至ります。地面に倒れる前に生徒が支えてくれたので、転倒によるケガはないこと、それによって頭部や頸部のケガの可能性が低いことと、出血や明らかな変形(骨折や脱臼の場合に生じる)がないこと、意識は朦朧としているものの、呼吸はしていること等から、その生徒を混乱させないように優しく声かけしながらしばらく様子を伺っていると、徐々に症状は改善していきました。その後、迎えに来てもらった保護者に状況を説明し、かかりつけの病院への受診を勧めその時の対応は無事に終了しました。

 

病院による診断結果として、今回のケースは「てんかん発作に伴う意識障害」でした。

ちなみに、川平ATRでは利用者の既往歴調査も実施しているので、その生徒にてんかんの既往があることは把握しています。

 

てんかんとは、突然意識を失って反応がなくなるなどの「てんかん発作」をくりかえし起こす病気です。「てんかん発作」は脳の一部の神経細胞が突然一時的に異常な電気活動(電気発射)を起こすことにより生じます(※厚生労働省HP参照)。

 

「てんかん発作」では、必ずしも即救急車という状況ではありません。ですが、場合によっては緊急性を要することも起こりえます。

 

てんかんに限らず、スポーツ現場に起こりうる様々な傷害や疾病に関し、我々ATはあらゆる知見を絶えず学習していかねばなりません。

 

「現場で確認するまで」、そして「その後の対応」も決して安易な判断をしてはならないのです。

 

初めての緊急対応時には、緊張感をしっかり持っていても、それが複数経験してくると、良い意味で落ち着いているのではなく、「まあ大丈夫だろう」という油断の気持ちが出てしまいがちです。学生ATの頃の私は、そんな油断をしている事が多々あったように思います。今思えば当時の私に激怒したいところです。緊張感というのは、どんなに経験を積んでも、ある程度保つ必要があるのだと思います。

 

緊急対応が必要な状況では、万が一が起こりうる場面です。緊急対応が必要かどうかについても、現場に行き確認するまで本当の意味ではわかりません。そして、その対応が不十分なために、または迅速な対応を怠ったために、疾病や傷害をより重症化することがあるのです。場合によっては命に関わることだってあります。

 

例えば、AEDが必要な状況(突然の心停止)においては、たった1分の処置が遅れるだけで、救命率が7~10%低下する(※日本赤十字社 赤十字救急法救急員等 資格継続研修テキスト 参照)と言われています。救急車を要請したとしても救急車が到着するのに平均8分程度(場合によっては更にかかることもあります)と言われているので、救急車が到着してからでは、救命率が極めて低くなります。

 

更に言うと、仮に救急隊員による適切な処置が施されたとして、医療機関へ搬送し命は救えても、救急隊員到着前の迅速かつ適切な対応がなければ、脳に障害を残す可能性は高まります。意識消失時、心停止があれば血液循環が止まります。「脳は血液循環が停止すると15秒以内に意識が消失し、3~4分以上の血流停止(無酸素状態)にさらされると不可逆性の変化を起こし、回復することが困難となる(※財団法人日本体育協会 公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト⑧救急処置 参照)」ためです。

 

決して大袈裟な話ではありません。残念なことに、緊急を要する事例(死亡や高度な障害を残す事例)は毎年、国内のどこかで発生しています。「学校の管理下の災害」と検索して頂ければ各年度毎のデータを確認できます。

 

大切な人(友人、知人、家族、生徒など)が突然倒れた時、救急車さえ呼んで来てもらいさえすれば、例え救命不可能(死亡や高度後遺障害など)であった場合に、仕方なかった、最善は尽くしたんだから、と納得いくでしょうか。

 

なぜこうなってしまったのかと、私ならば思います。

本当に『最善』であったのかと・・・

 

緊急時において、初期対応(救急隊員の到着前)がその後を左右すると言えます。もし、学校現場で対応すべき人が、取るべき行動を怠ったがために助けられなかったことがわかった時、仕方がなかったとすんなり納得いくでしょうか。

 

 

私だったら絶対に納得いきません。

 

 

緊急時の対応失敗では、たった一度の失敗であっても、取り返しのつかないことに繋がるかもしれないのです。対応者にとっては、その失敗を次へ活かすことはできます。しかし、受けるべき処置を受けれなかった傷病者にとって、そのたった一度の失敗が生命を左右することに繋がります。そうなった場合、傷病者とその家族の想いというものは、想像もつかない悲しみが生じるのではないでしょうか。どうしようもない程の激しい怒りさえ生じるかもしれません。

 

『油断禁物』

 

ATとして働いていて、この点だけは忘れずに日々過ごしていかねばと胸に刻んでいます。

私の場合、「高校スポーツの安全を守る」を掲げている以上、絶対に油断してはならない職業です。「助かるはずの命」を絶対に死なせてはならないと誓っています。

 

このことは、川平ATRへ実習に来た仙台大学AT学生に必ず伝えていることでもあります。

 

”命が大事”であることは、当たり前のことです。スポーツに励む選手達からすれば、そのスポーツを実行するための健康な身体が、”命”と言えるかもしれません。

 

しかし、その当たり前に大事な ”命” を守る仕組みに関しては、なかなか整備しきれていない様に思います。

 

この ”命” を守る仕組みの一つとして、緊急対応・注意喚起・予防教育の専門家であるAT(アスレティックトレーナー)が学校に必要と考えています。高校だけでなく、中学校、小学校全てに必要なのではとも考えます。

 

高校ATの価値、それは学校において最も大事な生徒の”命”を守る職業だと思っています。

テーピングやストレッチ、トレーニング、リハビリ指導などが主なATの仕事であるように考えられがちですが、対象者の命を守ることこそATの最優先事項です。

 

一日も早く高校ATが各高校に最低でも1人いるような体制にできないものかと思っています。

高校ATが当たり前になる日本へ向けて、私にできることとして、ブログを通して高校ATの価値を伝えていこうと思います。

 

「競技力向上」「傷害予防」「学力向上」「人間性の成長」「教育」

これらは、すべて "命" あってこそできることです。

 

これからも「高校スポーツの安全を守る」を念頭に、アスレティックトレーニング領域の普及を続けていこうと思います。

 

 

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