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  • 白坂 広子

映画 『コンカッション』


先日、映画『コンカッション』(脳震盪)を観ました。

この映画はスポーツの粋を超えたエンターテイメントを生み出すNFL (ナショナル・フットボール・リーグ) という巨大組織が隠してきた”真実”に立ち向かう1人の医師の話で、実話に基づいています。職業柄、とても観たい映画のひとつでしたので、楽しみにしていました。

「脳震盪」とは脳に衝撃を受けることで様々な症状を引き起こすことです。スポーツで相手、スポーツ器具、サーフィスなどに衝突し、頭を強く打ったり、頭を強制的に揺さぶられたり、といったことで脳にダメージが伝わり症状を引き起こすことです。症状は多種多様で、意識を失ってしまう、意識レベルが低い、意識がもうろうとする、何が起こったのか思い出せない・覚えていない、ふらつく、嘔吐するといった重症なものから、意識はしっかりしているし、記憶もしっかりしているけれども、頭痛がする、吐き気がする、集中力が低下する、感情的になる、眠れない・眠い、疲労感など普段と違う状態になる、という症状もあります。このような症状を出すことで脳は体に危険信号を訴えっているのです。多くの脳震盪は後者に挙げたような症状を発症するケースとなりますが、前者・後者ともに、脳震盪とは別に重大な頭部外傷(脳挫傷、頭蓋骨骨折、頭蓋内(外)出血など)が潜んでいる可能性あります。脳震盪は症状が続いている間は安静にし、脳が一時的に受けたショックやダメージから回復しなければいけませんし、症状の変化に注意をし、症状が継続する・悪化する・急変するなどの事態にすぐに脳神経外科などの病院へ搬送をする準備もしておかなければなりません。

アメリカのようなスポーツ大国では、脳震盪や頭部外傷への対処が日本よりかなり進んでいます。この映画『コンカッション』でNFLと医療体制が歩んできた歴史が描かれていますが、アメリカもいろいろなスポーツ事故を通して十数年かけて現在のようなスポーツ現場での医療体制を築いてきているのがわかります。現在ではNFLだけではなく、他のスポーツはもちろん、中学校や高校レベルでも専任のアスレティックトレーナーを配置し、脳震盪対策を行っています。

それでは、脳震盪が日本でどう認知されているか、私の実経験からお伝えします。

まず私が思うことは、「脳震盪」というスポーツ傷害があるということがあまり知られていない、ということです。スポーツ中に相手とぶつかって少し頭が痛いけどプレーを続行する、ということは足首を捻って少し痛いけど続行する、ということと重大さが違います。脳震盪の症状はすぐに表面上に現れるわけではなく、徐々に症状が出始め、悪化していきます。何かと強く衝突をし、普段と違う自分を感じたとき(頭痛、吐き気、疲労感、視界の変化、聴覚の変化、顔に力が入らない、しびれるなど)、これは脳震盪なのかもしれないから少し休まなくては、と正しい判断をするための脳震盪教育が足りていない、というふうに感じます。

そして、脳震盪を発症している、と疑いを持ったとしてもプレーを続行することです。選手がプレー続行したい、大丈夫です、と言うことはプロ選手でも高校生でもよくあることです。しかしその言葉を信じることはとても危険である、ということを監督やコーチ、顧問といった指導者があまり感じていないという現実があります。「今、このタイミングで交代させられない」というチーム側の思いや、「交代したくない」という選手自身の思いで交代のタイミングを遅らせること・もしくは交代しないことが、もしかしたら脳震盪以外の頭部外傷(脳挫傷、頭蓋内出血、頭蓋骨骨折など重篤な問題)を発見できず、将来的に重大事故に繋がってしまうことも有り得るのです。

日本では柔道、ラグビー、野球、ソフトボールなどといったスポーツで頭部外傷で死亡、もしくは重大な後遺症を残す事故が年々あります。このような事故から生徒は守られるべきです。

明成高校では、脳震盪の疑いがある生徒に対して、「脳震盪ホームケアと部活動復帰まで」という手順を詳細に説明したものを生徒、保護者、顧問に配布しています。このように選手、保護者、そして指導者の全員が脳震盪の危険性を知り、部活動を頑張ることで重大事故に繋がってしまうことがないように、これからも高校アスレティックトレーナーの最大の存在意義である「生徒の安全を守る」ことを第一に活動を続けていきます。

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